その十一は、第五十九段から第六十五段までの十六首。
- その十 第四十一段~第五十八段
- その九 第二十七段~第四十段
- その八 第二十四段~第二十六段
第六十五段は、古今和歌集に収録されている、題知らず、詠み人知らずの和歌四首(「さりともと」の歌のみ、題知らず、典侍藤原直子朝臣の作)をもとに構成され、ものがたりが構築されている点、異色の段となっている。
おそらくそれぞれ独立して読まれたであろう和歌をパズルのように組み合わせて、”在原なりける男”と、”おほやけおぼして使うたまふ女”の、宿世を表現している。帝の読経の声と、男の笛と歌、それぞれの登場人物を音で対比させている点も面白い。
段の終わり、「いたづらに行きては来ぬる」と、”まだ、いと若かりける”男がさまよい歩くイメージは、ドイツロマン派の歌曲にあるような失恋してさすらう若者のモチーフ(シューベルトの『冬の旅』や、マーラーの『さすらう若人の歌』など)に通じるところのあるようにも感じられる。