その十は、第四十一段から第五十八段までの二十九首。
和歌の特性について
和歌は、芸術的表現であり、作品であり、かつ歌を詠むこと自体、ある場面の出来事である(場との連続性を保持した芸術形態)。基本的に、過去や未来ではなく、その場のその時の心情を読むのであり、そのような意味において和歌というものは皆、「ある時の今」(道元著『正法眼蔵』「有時」の巻)であると考えられる。
そのような特徴から物語や日記などの文章に組み込みやすいものと思われる。また和歌の内容が虚構によるものであっても、和歌が上記の形式に基づくことに変わりはないといえるだろう。歌物語は、そのような和歌の特性に特化した文学形態であり、和歌というものを知る上において得るところのあるように思う。
試聴
行く蛍雲の上までいぬべくは秋風吹くと雁に告げこせ
吹く風に去年の桜は散らずともあな頼みがた人の心は
恋ひわびぬ海人の刈る藻に宿るてふわれから身をもくだきつるかな