その九は、第二十七段から第四十段までの十九首。
このあたりの段は、短い地の文に歌が一首という構成のものが多い。その短い段の連なりには、作品全体がそうであるように、”むかし”、”男”というワードがおおよそ通底していて、ある人物の様々な場面々々としての趣きがある。
それゆえ長くて分量のある段のほうが、短い段よりも内容が濃いとかそういうことでもないと思われるような印象を受ける。
それはその時折の情景や心を凝縮的に表しつつ、一般的な詩歌に比して場との連続性を保持し得るような存在形態(これには即興性という要素も含まれるだろう)を持つ、和歌という芸術媒体の特性によるところが大きいだろうと思う。
楽譜中、一つの”かな”が二つの音符にわたって引き伸ばされている箇所は、スラーのついたものは短い音価(半分の音価、通常の音符を八分音符として考えるなら十六分音符)を想定し、スラーの付いていないものについては、音価の変化を想定していない。
試聴
罪もなき人をうけへば忘れ草おのが上にぞ生ふと言ふなる
玉の緒を沫緒によりてむすべれば絶えてののちもあはむとぞ思ふ