尼はかくこそ候へど 大安寺の一万法師も伯父ぞかし
『梁塵秘抄』四句神歌 377
甥もあり 東大寺にも修学して子も持たり
雨気の候へば ものも着で参りけり
「尼である私は、このようなみすぼらしいなりをしていますが、親戚に立派な法師をしている伯父がいますよ。甥もいますよ。甥は東大寺に修学して子もいます。ちょっと雨が降ってきそうなんで、汚れるといけないのであまりちゃんとしたものも着ずに参りました。」
日常の一場面を切り取ったような内容の歌。尼と雨(あま)を掛けている。即ち「尼はかくこそ候へど」と「雨気の候へば」を掛けたうえで、「ものも着で参りけり」の一句で構成としてうまく落とし込んでいる(尼はかくこそ候へど、「あま」だけに、ものも着で参りけり)。その内容は一見、見栄を張り、取り繕うように話をしていて、それが同時にいくらか洒落をきかせているところに、この尼の人物が描かれているように思う。