ヴァイオリンとピアノのための二重奏、第一楽章。ピアノのパートをモノフォニックに扱っているところはこの楽曲の一つの特徴となっている。
一般にピアノの譜面は、大譜表で書くことになっている。大譜表による記譜は、左右の手を機能的に均等に使う楽器、鍵盤楽器やハープなどに適している。それは必然的に広い音域を扱うことをも意味している。
いかに広い音域を扱う楽器であっても、左手で音程、右手で発音というように機能的に使い分ける弦楽器やあるいは管楽器には、大譜表は基本的には向いていない。
ピアノのように大譜表をもって記譜される、左右の手が空間的に自由な楽器(一次元的に、あるいは音程空間とでも言うべきものに対して)は、音と音の同時的調和を扱うのに優れている、人体の構造にもとづいて本質的にポリフォニックなもので、モノフォニックな楽器としては扱われない。
人にもとづいてそのような扱いが妥当であるし、ピアノが単独で演奏される場合、それが妥当であると考えられる。
だが、ピアノがアンサンブルの中の一つの楽器である場合、その限りであると考えることはあまり妥当とは言えない。ピアノを両手で弾くことを想定した場合に、それを常に大譜表で記譜するということはピアノの可能性を狭めてしまう、と考えることに、意義を見出すことができるのではないか。
ピアノという楽器は、本質的にポリフォニックな性質(ハーモニーを扱う)である鍵盤楽器というものからすれば、必ずしも必然性があるとは言えない機能であるところの「強弱表現」というものをものすごく得意とする楽器であり、換言すれば、モノフォニックな旋律楽器としての特性を備えている、さらに言えば、鍵盤楽器でありながら、非鍵盤楽器としての性質をその楽器の核として備えていると言える。
そのようであるから、ピアノという楽器をアンサンブルのために、例えるならモノフォニックシンセサイザーのように扱うということは、楽器の性質にもとづいて一つの正当な使い道であり得るだろう。ゆえに、その場合ダンパーペダルはあまり必要なく、使うとしてもひとつの音に対してその響きを増すような使い方が想定される程度であり、二つ以上の音にまたがって使うということは適さないだろう。また一つの旋律に対して、必要であれば両手を使えばよく、音程の跳躍は容易となる。