遊びをせんとや生まれけむ 戯れせんとや生まれけん
『梁塵秘抄』四句神歌 359
遊ぶ子どもの声聞けば わが身さへこそ揺るがるれ
梁塵秘抄の中でも有名なこの一首は、その歌詞については解釈を読み手に委ねるような抽象性があって、様々な解釈がなされる。
歌詞の中で興味深く思われるのは、「声」を聞いて「揺る」ぐとあるところ。それは『梁塵秘抄』の書名の由来とされる故事が連想される。
梁塵秘抄と名づくる事。虞公韓娥(虞公と韓娥、人名)と言いけり。声よく妙にして、他人の声及ばざりけり。聞く者賞(め)で感じて涙おさへぬばかりなり。歌ひける声の響きに、梁(うつはり)の塵たちて(舞い上がって)三日ゐざりければ(三日間そのまま落ちてこなかったので)、梁の塵の秘抄とはいふなるべしと云々。
『梁塵秘抄』巻第一より
この故事は、”音の振動”ということをモチーフとしている。そしてそれがそのまま『梁塵秘抄』の書名となっているのである。
振動(=音)、それは伝播するもの。ある種の音(遊ぶ子どもの声)、その振動によって、「我」が揺らいだということ。心が揺らいだと受け取ることもできるし、体が自然と動き出したというようにも解釈できる。それもやはり心が動いて体が動き出すのだろう。(「揺るぐ」はものが揺れ動く、あるいは、心が動くの意。)
様々な解釈がなされうるが、この”振動”というものが通底する一つの本質的モチーフとしてこの歌にあるものと考えられる。